当ブログはJ-WAVEの「GROOVE LINE」内でピストン西沢氏にごく一瞬紹介されました。まぁ素敵。


by travelers-high
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呪いのキムチ(後編)

「おーい、おかーちゃん、冷蔵庫のキムチ知らん?」
俺は3ドアになった冷蔵庫の中段の扉を開けて中腰のまま中を覗きながら、居間にいる母親に大声をあげた。
「はー?知らん、触ってない。」
少しの間があってから、まるで痴漢の弁解のようなシンプルな回答が家の奥からハネ返って来た。
おかしい、俺は確かに昨日生協で安売りの徳用キムチを買ったはずだ、確かにカゴに入れた記憶がある。松尾スズキのブログで紹介されていたキムチに卵黄と納豆を混ぜた食物を食いたくてわざわざ買ったのだ、忘れるはずがない。しかし、冷蔵庫のどこを探してもそのキムチが見付からない、野菜室にもない、キムチが冷蔵庫以外の場所にあるなんて考えられない。おかしい、俺は冷蔵庫の前で考え込んでしまった。
やっぱり買わなかったのかなぁ。うん、ま、いいや、買わなかったんだな。
私は自らの確かな記憶を積極的に封印し、いつもの穏やかな日常を取り戻そうとした、その瞬間、まさにそのタイミングで地獄から悪魔の使者が世に遣わされた、あのキムチには恐ろしい呪いがかけられていたのじゃああ!(怒号)

つまりこういうことだ、俺は生協で買い物をすませて愛車に戻り、食料品が大量に入ったビニール袋を後部座席の足元に置いた。そして帰り道、車の振動か何かで円筒状になっているキムチの容器がビニール袋から転がり出る、そしてそれはゴロゴロ転がって運転席のシートの下にスポリとおさまったのだ。そしてそんな事などまるで気が付いていない俺は、少し軽くなったビニール袋を持って車を降り家の中に入っていったのだ、なんという悲劇だろうか。梅雨を控えた南九州は初夏を思わせる陽気で、連日20℃オーーバーの最高気温を記録していた。本来冷蔵状態で保存されるはずのその半島生まれの漬物は、ひょんなことから俺の愛車の運転席の下でふつふつと熱を蓄え、個性的で実に斬新な物体にその姿を変えようとしていたのだ、そして時折運転中に俺の鼻腔をくすぐったあのニンニク臭の正体は、そのキムチが繰り返す変体の過程で生まれ落ちた新たな小さき生命たちの産声だったのかもしれない。

(THE END)
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by travelers-high | 2006-05-25 22:52 | よれよれ日記