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当ブログはJ-WAVEの「GROOVE LINE」内でピストン西沢氏にごく一瞬紹介されました。まぁ素敵。


by travelers-high
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海と私

俺は喉にしみる苦さに顔をしかめ便器から顔を上げた。
船内の二階にある最低限の機能だけで構成された殺風景で薄汚い便所の視界は涙で滲んでいる、目の前にある便器の洗浄ボタンをを半開きの眼で見つめながら俺はこの航海が呪われていることを知った。船酔いだ、これは隙の無い船酔いだ、酒も飲まずにゲロを吐いたのは一体いつぶりだろうか、ちくしょう、陸で食ったエクレアが出てっちまった。あー、きつい、乗り物酔いはきつい。酒の酔いならいきなりきついって事は無い、楽しく陽気な時間があってその後ムチャクチャになって泣いたり怒ったりした後に気分が悪くなるものだ、しかし船酔いはそれが無い、楽しく酔う時間が無いのだ、船酔いは不愉快だ、やっぱり船なんかに乗るんじゃなかった。俺は元来あまり海と相性が良くない、海は俺に冷たい、海に行って楽しかった記憶などあまり無い、大体塩辛い。しかしこれはひどい船酔いだ、グルグル回る視界を楽しめる人間などいるものか、さっきから脳内でエラー音が鳴りっぱなしだ、生きている気がまるでしない、しっかりしろ三半規管、こら、そっちは下だ、上じゃない、しっかりするんだ三半規管。ぐむ、気持ち悪い、海にリンチされている・・・、そう感じながら俺は次なる吐き気に備え手すりを強く握った。
船の竜骨がギシギシと音を立てている。俺の足元がふらついているのは何も三半規管のせいだけでは無かった、この宮崎と大阪を結ぶ大型フェリーは出航直後から強風にさらされ激しく揺れているのだった。
by travelers-high | 2006-11-02 21:58 | 幻想絵巻