当ブログはJ-WAVEの「GROOVE LINE」内でピストン西沢氏にごく一瞬紹介されました。まぁ素敵。


by travelers-high
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島へ(3)

地球の自転と月の公転が複雑に脳味噌をシェイクしているようなめまいが私を襲っていたので、とりあえずこの新キャラに助けを求めてみようと心に決め、アフター卒倒、初めて能動的にアクションを起こすことにした。言葉を吐くのが先か、昼飯のちゃんぽんを吐くのが先かという切羽詰った状況だったが、辛うじて言葉が先に出た。
自分の症状をなるべく端的に、そして極力素直に表す母国語を、糠床からキュウリを掴み取るように、小学校の掃除の時間で濡れ雑巾をバケツの上でしぼるように発声。

「き・・・、きぼちわるいのです。」

その「き・・・。きぼちわるいのです。」とは、もちろん気持ちが悪いということを表現したかったのだが、その「きぼちわるいのです。」の「す。」を言い終えた瞬間、音が全て消えた。ターボプロップのエンジンが引き起こす爆音も、ジェット気流が主翼をねじるきしみも全て消え、一拍のパーフェクトな静寂が雲の上に舞い降りた。神に相当する何者かが、自宅にあるフローリングの居間でソファに寝そべりながら、休日の退屈しのぎにこの世界のミュートボタンを押したのかもしれない。
少なくとも私には、刹那と永遠が同居したように感じた、時間が止まった。
奇跡だった。アフガン産の混ぜ物が見せた夢の真髄だ。

「あははははは!!いい声で鳴くね~!!」

止まった時計の針を動かしたのは、看護学校中退の女が高らかに上げたキンモクセイの香りがするサディスティックな笑い声だった。巨大な炭酸の泡が弾けたような爽快な声だった。
私が死ぬ思いで吐いた言葉を、偉大な歴史に対して垂直に進む詩の様な時間で咀嚼し、満足したところで一気に笑い上げるとは、お見事。

感心しすぎて意識を失った私はその後しばらくの記憶が無い。目が覚めると空港の小さな待合室で、コンクリートの床に直で寝かされていた、そして腹の上には行きの空港で預けた手荷物の小さなバックパックが置いてあるのだった。

背中痛ってぇぇ~。いくらなんでもコンクリの床に直に寝かすこたねえだろうに。
グリスが切れて、尚且つ大事な部品が脱落した工作機械よろしくギシギシと半身を起こす。
左手にはめたGショックは持ち主の一大事を気にしていた様子も無く、この国の標準時を無表情に表示していた。小さなバックパックのさらに小さなポケットからタバコとライターを取り出し火をつけると、軽いタバコの薄い煙が宙に舞う。
もう夕方か。七月の湿度がこもる空気に少しだけ夜の気配が感じられた。

「少しは楽になった?」

殺風景で薄暗い昭和の雰囲気を残す空港の待合室で、私から少し離れたところにある背もたれが一部欠損したプラスティック製の赤いベンチに座っていたのは、その女だった。
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by travelers-high | 2007-11-15 21:58 | 幻想絵巻