当ブログはJ-WAVEの「GROOVE LINE」内でピストン西沢氏にごく一瞬紹介されました。まぁ素敵。


by travelers-high
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島へ(5)

女はコーラの缶を横に振って空になったのを確認すると、何かに納得したような顔をしておもむろにベンチから腰を上げ、待合室の角に向けてすたすたと歩き始めた。彼女の先には角と赤い自販機、そしてゴミ箱がある、たぶん手に持った空き缶を捨てるのだろう。
ベンチとゴミ箱の中間まで進んだ彼女はふと足を止め、こちらに首だけ向けて、
「あ、私、ミユキ。末森美幸。あんたの保護者。」

自己紹介は有難かったが、最後の言葉が気になった。
「保護者・・・?」

「そう、保護者。」

ミユキはゴミ箱に視線を戻すと、空き缶を目の高さまで持ち上げてから手を離し、垂直に落下してきたところでジーンズをはいた右足を勢い良く振り抜いた。アディダスの茶色いスニーカーに蹴り上げられたアルミ缶は見事な放物線を描いて宙を舞ったが、ターゲットのゴミ箱を少し外れて自販機を直撃してから跳ね返り、床に転がって軽い金属音を立てた。

からん。

ちっ、ミユキは露骨に舌打ちをすると、蹴り跡がへこんだ空き缶をよっこいしょと拾い直してゴミ箱に捨てた。そしてこちらに向き直り、
「あんた飛行機で失神したでしょ。あの後あんたを介抱して、着陸したら飛行機から降ろして、んでここの床までえっさっほいさと運んできたすごく親切な人は、さて誰でしょう?」
と、実に楽しそうに言うのだった。

「み、美幸さんですか?」
そう答えるしか無かった。

ミユキはニヤリと笑うと、
「ブー、それをやったのは全部スッチーと空港の職員。私は見てただけだよ。ただ、一応保護者ってことにして、あんたの身柄を引き取ったのは私。ここの人もあんたを持て余してたみたいだからなんだか感謝されちゃった。」
と、ここまでの顛末を物語るのである。
自分の今の状況が飲み込めると、どうにも情けなかった。

「ま、ひとまず恩人に感謝の気持ちを表して、晩飯くらいご馳走してくれてもいいんじゃない?」
どうやらこの女は最初からそのつもりだったらしい。
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by travelers-high | 2007-11-19 21:04 | 幻想絵巻