当ブログはJ-WAVEの「GROOVE LINE」内でピストン西沢氏にごく一瞬紹介されました。まぁ素敵。


by travelers-high
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島へ(9)

ぎっこんばったん、そんな表現でいいのだろうか。
とにかく近くに行けば行くほどその揺れが恐ろしく激しいものだとわかる。俺は最悪の事態を覚悟した。こんな時は最も悪い事を想定するのである、そうすればあらゆる場面に臆す事無く対応出来ようというものだ。
この場合のサイアクとは、露出壁のある熟年夫婦が夫の仕事場で夕日を尻目に熱いファイトをしているであるとか、世の中に深い憎しみをたぎらせた若者がタクシー強盗をはたらいて運転手と激しいファイトをしているとか、何かきっとあのタクシーの中で想像を絶するとてつもなく奇天烈なファイトが繰り広げられているに違いないということだ。
そして俺は、その状況を何とかした上で、「街までつれてってください」と運転手にアバウトな依頼をしなければならない。路線バスはこの時間で既に閉店、このタクシーを逃せばあとはヒッチハイクくらいしか移動する手段が無くなる、どうしてもこのタクシーで街まで行かなければならないのだ。何が最悪かといえば、この俺のおかれた状況が既に最悪なのである。
飛行機の上で気絶して、目が覚めたら恩人を名乗る女がいて、そしてポルター・ガイストのように不吉な動きをするタクシー。何で来たのかな、この島に。

あ、腹筋運動だ。

ひと目見て理解した。二車線の車道を横切る形で後ろから前傾姿勢でタクシーに接近したのだが、リアガラスに激しく動く頭が透けていた。禿げ上がった頭がバネ仕掛けのように、びゅんっびゅんっ、と動いている、どうやら運転手らしき男性が後部座席に横になった体勢で腹筋に凶暴な負荷をかけているところだったようだ。

俺は何食わぬ顔で道路を引き返すと、みゆきの耳に口を寄せ、
「すっごいことしてた。」
とだけ伝えた。
みゆきの目が一瞬鈍く光ったような気がした。
その小柄な女は先ほどの自分と同じように前傾姿勢になり、道路を横切って後から揺れるタクシーに近づくと、そのまま歩道側から後部座席を覗き込んだ。

あははははははははは!!

澄み切った笑い声が島の夕焼けに溶けたとさ。
(プロローグ・完)
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by travelers-high | 2007-12-06 20:01 | 幻想絵巻