当ブログはJ-WAVEの「GROOVE LINE」内でピストン西沢氏にごく一瞬紹介されました。まぁ素敵。


by travelers-high
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島へ(10)

みゆきと俺はタクシーの中でも腹を抱えて笑っていた。
「で、どうしてタクシーが傾いてたの?」
腹筋運動をしていたそのタクシー運転手は、なれた感じで海沿いの県道を飛ばしながら、
「いや~、普通の腹筋じゃ物足りないからね、角度をつけてやろうかと思って。しかしえらいところを目撃されたな~、普通あの時間にお客が来ることなんてないからね。」
そう言うと、おでこから頭頂部へきれいに禿げ上がった頭を照れ隠しにかいた。
助手席の前にあるIDには「鬼村 一郎」と書いてある、「鬼村」と書いて「キムラ」と読むらしい、冗談のような名前だ。グレーの地味な制服の上からでも肩の筋肉が盛り上がっていることがわかる、脱いだらきっと競走馬のような肉体をしているに違いない。
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「で、お客さん、こんな何も無い島に何しに来たの?」
俺はみゆきと顔を見合わせると、お互いがそういう事情を一切話していないことに気がついた。
まあ、知り合ったのがついさっきだから当たり前なのだが。
みゆきは視線を前に戻すと、「仕事。」とそっけなく答えた。
「俺は遊びに・・・、かな、多分。」
みゆきはあきれた顔をして、
「多分?」
「うん、多分。」
「何とも主体性の無い話ねぇ。」
「へぇ~、じゃお客さん達はもともとの知り合いじゃないんだ、別の用事でここに来て、たまたま一緒になっただけなんだ。」
「へぇ~」とキムラが妙に感心している。ま、でもそういうことだ。

日がとっぷりと暮れた。対向車も無い。
タクシーメーターが表示する緑色の数字だけがやけにくっきり見えた。
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by travelers-high | 2007-12-18 22:23 | 幻想絵巻