当ブログはJ-WAVEの「GROOVE LINE」内でピストン西沢氏にごく一瞬紹介されました。まぁ素敵。


by travelers-high
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

カテゴリ:幻想絵巻( 63 )

狂妻家というもの

「私は妻に狂信的なんです。」

会社のつまらない飲み会なんかで三次会に誘われた時に、私はこんな台詞を吐いてその誘いを断ることにしている。ギリギリ終電に間に合うタイミングで言うと説得力があるようで、この台詞を吐かれた同僚なんかは急に私に対して興味を失うようだ、あっそ~、ってな感じのサディスティックに乾燥した視線で俺を見つめてくれる。一応、私は社内で愛妻家という有難いキャラクターを頂いている、社内と言うほどの規模ではないかもしれない、しがない工場の私はしがない工員である。先ごろ噴火のように大規模なリコールで社会的にかなり叩かれた軍閥系のさえない自動車会社の下請けで、主にエンジン内部の駆動系の部品を生産しているのが弊社である。二交代のさえない会社の飲み会がさえないのはある意味仕方が無いという側面もある、確かに、さえない、議題は決まって、パチンコ、野球、風俗、あと社会情勢、決まって半島の北を侮蔑する内容だ、みんな揃ってTVで聞いたような事をオウムみたいに上手に喋る。二次会までと決めている、私はそれでさえない飲み会から失礼すると決めている、二次会までなら私は彼らのお話に上手に相槌を打って差し上げる事が出来る。私はさえない工場のさえない工員の中でも相当にさえない部類だが、妻に狂信的なのは誘いを断る口実なんかではなくて、事実なんである、私は妻が好きだ、愛妻家などという生やさしい焼きたてのクレープのような香りを発生させる言語では到底表現できない程に妻が好きだ。「変態」とでも呼ぶのだろうか、一般に世間様と言われるものには、私は。
アメリカ人の夫が妻に、
「私のことどれくらい好き?」
と聞かれれば、夫は自分の手を一杯に広げて、
「こ~んなにさ。」
とか、言うかもしれない
私はそんなもんじゃない、私なら多分妻に「私のことどれくらい好き?」などと質問をされたら身近にある照明を利き腕の手刀で叩き割り、ガラスの刺さった指で純白のシーツに血文字で、
「こ~んなにさ。」
と書くだろう。そんなに好きなのだ。
しかし幸いなことに私はまだ血文字を書いたことが無い、理由は簡単だ、妻はそんな質問などしないからだ。私の働く工場はかなりさえないが、私の妻は相当にそっけないのだ。朝ごはんがふりかけと冷飯だけのようなそっけなさ、それが妻だ。道を歩いていると、まずそっけなさが前から歩いてくる、その後に妻が現れる、そんな具合のそっけなさだ。ま、それでも実際に朝の食卓に冷飯がのぼるなんてことはさすがにありはしない、なぜなら朝食を作るのは私だからだ。
[PR]
by travelers-high | 2006-07-24 21:40 | 幻想絵巻
七月になってしまった、私は七月を夏にカテゴライズしている。
つまり季節はもう夏だ。
夏っぽく少しこわ~い話をしよう。

いや、多分怖くはならないだろうな。

つい先日母方のじいさんが死んだ、別にそれは怖くはない、なんとなく爆笑しているようにしか見えない顔で棺に入っていたし、87歳まで生き6人の子供を育て上げ9人の孫に恵まれた男だ、天寿をまっとうしたと言えるのではないか。しかし、これで俺の4人の祖父母が全て逝ってしまったことになり、我が家は完全に世代交代が行われたことになる。
葬儀を終えて兄と二人で飲んでいると、二十代という時間の三割くらいをアジアの放浪に費やした男であるその兄がこんなことを言い出した。
兄:「俺が死んだ時は骨をガンガー(ガンジス河の事、インドにあるヒンズー教の聖なる三途の川)に流してもらいたいなぁ」
俺:「そんな遠いところまで誰に持ってってもらうだよ」
兄:「お前が持っていけばいいじゃん、インド行った事あるし」
俺:「いいじゃんってあんた、歳とってヨボヨボの俺にインド旅行とかそんな過酷な事させる気かよ、だいたいそれじゃ末っ子の俺の骨の事はどうするんだ?頼むやつがいねえじゃねえか」
兄:「子供つくってそいつに頼めよ」
俺:「ガンプラじゃねえんだからそんな簡単に子供なんかつくれるか、だいたい嫁がいねえだろ」
兄:「いいよ、嫁との出会いなんて爆弾みたいなもんだから、そのうちどっかで爆発するから、爆発したと気付いた時には全部終わってるからさ」

俺の嫁は兄に言わせると「俺にしか効かない爆弾を体に巻いたテロリスト」なのだそうです。結婚とは物騒ですな。
[PR]
by travelers-high | 2006-07-02 11:46 | 幻想絵巻

夕暮、更衣室、木刀

「円熟」、麒麟麦酒社の出した新しい発泡酒の商品名である。
発泡酒とは、ビールの税率引き上げに危機感を抱いたビールメーカー(SFの響きがあるな、この単語)が、麦芽の使用比率を25%以下と低く抑えることにより、ビールに極めて似た味がするにもかかわらず、法の網を見事に突破して酒税を安く抑えることに成功した奇跡のアルコール飲料である。税金対策から生まれたという背景が何となく姑息、廉価版ビールというポジション、代替品、フェイク、そんな嘲笑がブルジョアジーな方角から聞こえてくるようだ。しかし、私は発泡酒が好きだ。もちろんビールも好きだ、というかビールの方が好きだ、コクもキレもフレーバーもやはりビールの方が一枚も二枚も上である。それでも、それでもである、その若干の心細さを覚える独特の味、香り、なにか健気ではないか、頑張っている感じがするじゃないか。ビールがエースで四番なら、発泡酒は二番でショートだ、地味なつなぎ役だが既に無くてはならない存在になってしまっている。発泡酒の進化は早かった、麦芽の使用比率の上限という厳格なルールの中であらゆる努力がなされてきたのだろう、その誕生からたった11年で確かにうまくなったと思う。切れる頭脳、高度な技術、そしてたゆまぬ努力、制約された状況でベストを尽くし、今じゃスーパーでは本家ビールを凌ぐ売り場面積だ。
だが、まだ「円熟」は早い、発泡酒の役割はまだ始まったばかりだ、発泡酒が完成するのはまだ後だ、「円熟」はうまいが円熟してはいない。結局俺は発泡酒の更なる進化を期待している為に、「円熟」という商品名がダメだという事が言いたい。
「完熟ビキニもぎたて熱視線」に改名してはどうだろう?売り上げは減るな、間違い無く、まるで昭和のエロ本だ。
[PR]
by travelers-high | 2006-04-08 21:10 | 幻想絵巻

拾う捨て鉢

うっかりするとこんな事をしてしまうかもしれない。朝、即席の味噌汁を作る為にお椀へ湯を注ぎいれる瞬間手元が狂ってテーブルに湯をこぼしてしまうかもしれない。昼、用事のついでに立ち寄った本屋で魔がさしてエロマンガを五年振りくらいで買ってしまうかも知れない。夜、気まぐれでやってみた腕立て伏せを三回くらいでやめてしまうかも知れない。うっかりはどこまでがうっかりなのだろうか。うっかりとはそもそも何なのか。とったりとうっちゃりは。まったりときっぱりは。何が言いたいのか、俺は。
[PR]
by travelers-high | 2006-04-04 21:12 | 幻想絵巻

小豆姫

全国肛門科医師連絡協議会(肛連協)は肛門のイメージアップを図る目的で、「ユー・アー・プリンセス・イン・マイ・アス」と銘打ったキャンペーンを全国に展開すると発表した。
19日午後、都内のホテルで行われた記者会見で肛連協の東会長は、「肛門は人間の持つ最高にデリケートな器官の一つ、肛門の病気の苦しみはなかなか周囲の人に理解してもらえず患者が悩みを抱えたまま孤立してしまうケースが多い、まずは肛門へのネガティブなイメージを変えてもらい積極的に肛門科を受診して欲しい」、と語った。
好天に恵まれ春らしい一日となった渋谷では、ボランティアの学生を中心にキャンペーンを告知するビラを道行く人に配布した、ビラ配りに参加した石田さん(28)は「僕も痔で悩んだ経験があります、身近に相談できる人の存在が大事、年に一度は肛門科の受診を」と笑顔で話した。(八壱)

俺は今でも痔の再発に怯えているフシがある。
[PR]
by travelers-high | 2006-03-19 20:27 | 幻想絵巻

春には春の天秤棒

その角を曲がると妙に足のでかい女が前から歩いてきた、山吹色のパンプスがフランスパンみたいにふくらんでいて気味が悪かった、少し恐ろしくなったからビルの壁に寄ってその女に道を開けた、早くすれ違ってしまいたかったからだ。
彼女が横を通り過ぎた時、何かぶつぶつ喋っているのが分かった。
「ないないない、ないないない」
[PR]
by travelers-high | 2006-03-18 23:05 | 幻想絵巻

キェー!

手を挙げて止めたらタクシーじゃなく流れ星だった、
急いでいたし面倒臭かったからそれに乗ることにした、
やけにごつごつした星にあぐらをかいて運転手なんかいないから仕方なしにこうつぶやいた、
「先に花屋に寄ってからあの子のところへ連れてってくれないか?今日中に渡さなきゃいけないものがあるんだ」
つぶやいたつもりが、
最後は祈っていた、
星は別にうなずきもしなかった。
[PR]
by travelers-high | 2006-03-07 20:56 | 幻想絵巻

二月の夢(6)

「ロックでよろしいですか?」
マスターがプロらしく落ち着いた応対を見せる、ちっ、変態のくせに。菊乃露の12年でロックといえば、ドンピシャで俺が今口を付けているグラスの中身と同じ酒だ、イエス!この偶然は奇跡だ、酒の話が突破口だ、そこから話を膨らませて彼氏の悩みとかまで引きずり出せ、展開は加速するぜ、試し飲みとかいってキツめの酒をどんどん飲ませちゃえ、いいぞ、まず酒だ、酒の話だ、酒酒酒。
「いえ、水割りで、少し薄めに」
ガクーッ、水割りかよ、しかも薄めって。
もとより菊乃露に12年物の製品などない、マスターいわく自宅の地下室に一升瓶をそのまま保存して熟成させているらしい、しかし、このマスターが地下室のあるような自宅に住んでいることがまず疑問である、変態のくせに。
[PR]
by travelers-high | 2006-02-18 21:46 | 幻想絵巻

二月の夢(5)

不幸が似合いそうな女

実際に不幸であるかどうかは問題ではない、問題は似合うかどうかなのである、他の言葉でこの感覚に近いのは、逆境に耐えられる女、けして逆境に強いのではない、どちらかといえば逆境がもたらす痛みに強いのである。
俺は女が座ると同時に席を立ち一旦便所に移動した、理由はこうである。えーと、女女女、女だ、若いぞ、若い女の感じがするぞ、ヤバいな、一人だ、カウンターに座るぞ、こりゃ、困ったな、えーと、何話そう、何も話さないわけにもいかないからな、えーと、とりあえずつけてる時計とかピアスとかをテキトーに誉めてみるか、女はそういうの好きだもんな、なんとなく、これだな、なんとなく話しかけてみよう、あー、だ、でもどうしよう、アマゾネスだったらどうしよう、電波が来てたらどうしよう、サルに似てたらどうしよう、ダミ声だったらどうしよう、何話せばいいんだろ、・・・、ま、いいか、とにかくどんな女か確認しなきゃ始まらねえ、よし、よし、仲良くなるぞ、きっと仲良くなるぞ。
対人恐怖気味の人間が女好きだとこういった思考になるのである、自分を鼓舞しなければなかなか女に話しかけられないのである、しかし女好きの衝動が話しかけられずにはいられないのだ、つくづく厄介な性格だと思う。
本当に小便をして手を洗うと、島唄ライブを告知するフライヤーやら民謡酒場のチラシやらがベタベタと貼られたトイレのドアを慎重にがちゃりと開ける、開ければカウンターは正面だ、このやろう、どんな女だ、でーい。
女は俺の座るカウンター席から一つ空けた奥の席に小さい尻をチョコンと乗せて、肩まであるストレートの黒い髪をカウンターに垂らしながら食い入るようにメニューを見ていた、そして、ふ、と顔を上げると、小さな唇がこう言った、「菊乃露、12年のやつ」、梅の香りがしそうな声だった。そして不幸が似合いそうな女だなと思った。
[PR]
by travelers-high | 2006-02-16 21:30 | 幻想絵巻

二月の夢(4)

がちん

俺とマスターのグラスが触れ合う瞬間の、きん、という音にかぶせるかの如く、がちん、という音を立てて店の扉が開いた。店の出入り口にあるドアは、この軽薄で弛緩した空気が満ちる店内でどこか異質な存在だ。板チョコを極厚にしたような形状でとても重量感があり、奇怪な祭りを表現した不気味なレリーフが彫刻されている、ドアというよりもどちらかというと扉と呼びたくなるような代物なのだが、こいつにはクセがある、開く時だけ、がちん、と奇妙な金属音を立てるのだ、閉じる時は何もならないのだが、それはまるでマスターに来客を知らせているかの様にも映った。
俺は扉が開いたからといって振り返って顔を覗き込むような無粋な真似はしない、話し声や気配でどんな客が来たのか想像するのだ、人数や男女比、身に着けている物、顔、そうして自分の中でイメージが固まったら、便所に行く時なんかにそれをこっそり確認したりする、割と無意識にそうしている気がする。
客が入ってきたようだ、底の厚い靴が木製の床を蹴る時の鈍い音が背中の後ろから聞こえてくる、こいつはどうやら女だ、しかも若い。
[PR]
by travelers-high | 2006-02-13 21:10 | 幻想絵巻